脱炭素における水素活用とは?メリットや課題を企業事例で解説
この記事のポイント
脱炭素において水素は、電気で代替しにくい産業分野を支える重要なエネルギーです。製造方法によりCO2排出量が異なり、コストとサプライチェーン整備が普及の課題です。日本は水素社会推進法で価格差支援を進め、企業も導入を拡大しています。
「脱炭素を進めるうえで水素をどう活用すればよいのか、他の再生可能エネルギーと何が違うのか知りたい」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- 脱炭素における水素の役割
- 水素活用のメリットと課題
- 政策動向と企業の活用事例
脱炭素と水素は切り離せない関係にあり、水素は電気だけでは代替しにくい産業分野の脱炭素を支える重要なエネルギー源です。
本記事を読めば、水素の種類やメリット・デメリット、コスト面の課題から国内の政策動向、企業の具体的な活用事例までを一通り把握でき、自社の脱炭素戦略に水素をどう位置づけるべきか判断しやすくなります。ぜひ最後までお読みください。
脱炭素における水素の役割とは
脱炭素を進めるうえで、水素は電気だけでは代替しにくい分野を担う重要なエネルギー源です。製鉄や化学といったCO2排出量の多い重工業でも活用できるため、産業全体の脱炭素を進める切り札として注目されています。
水素が脱炭素の切り札とされる理由
水素が脱炭素の切り札とされる最大の理由は、貯蔵と輸送ができるエネルギーキャリアであることです。電気は大量かつ長期間の貯蔵が難しい一方、水素は気体や液体の形で貯めておき、必要なときに電気や熱、燃料として使えます。
発電・輸送・産業など幅広い用途に対応できる汎用性の高さも強みです。すでに140カ国以上が水素戦略を策定し、500件を超える水素プロジェクトが稼働または計画段階にあります。エネルギー安全保障の観点からも、化石燃料の輸入依存を減らす手段として各国が水素政策を強化しています。
水素の種類とCO2排出量の違い
水素は製造方法によってCO2排出量が大きく異なり、色分けして呼び分けられています。
| 種類 | 原料 | CO2排出の特徴 |
|---|---|---|
| グレー水素 | 天然ガスなどの化石燃料 | 製造時に水素1トンあたり約9〜10トンのCO2を排出する |
| ブルー水素 | 化石燃料(グレー水素と同じ原料) | 製造時のCO2を回収・貯留し排出量を抑える |
| グリーン水素 | 再生可能エネルギー由来の電力 | 水の電気分解でつくるため製造時のCO2排出がない |
現在製造されている水素の大半はグレー水素です。脱炭素の効果を最大化するには、二酸化炭素の回収・貯留を行うccsによる二酸化炭素の処理技術などを組み合わせて製造時の排出を抑えるブルー水素や、グリーン水素への転換が欠かせません。
水素エネルギーの基本的な仕組み
水素は原子番号1、元素記号Hで表される最も軽い気体で、燃焼させて熱エネルギーに変えたり、酸素と反応させて電気エネルギーに変えたりできます。このエネルギーを車に届ける水素ステーションの仕組みなど、供給側の技術も開発が進んでいます。利用段階では水しか排出しないため、環境負荷を抑えられる点が特徴です。
ただし水素は自然界に単体でほとんど存在せず、化石燃料や水から取り出す必要がある二次エネルギーです。製造方法や電力源によって脱炭素効果が変わるため、どの水素を使うかが脱炭素戦略の成否を左右します。
脱炭素に水素を活用するメリット
水素は脱炭素の手段として、CO2削減以外にもさまざまな利点を持っています。ここでは代表的な4つのメリットを紹介します。
CO2を排出しないクリーンな特性
水素は利用段階でCO2を排出せず、燃焼させても水しか生まれません。再生可能エネルギー由来の電力で製造したグリーン水素を使えば、製造から利用までCO2排出を抑えた脱炭素の実現につながります。太陽光や風力の余剰電力を水素に変換して利用する取り組みも進んでおり、再生可能エネルギーの導入拡大とあわせて脱炭素効果を高められます。
エネルギー自給率を高められる
日本は化石燃料の多くを海外からの輸入に頼っており、エネルギー自給率の低さが長年の課題です。水素は水と電気があれば国内で製造できるため、輸入資源への依存を減らし、エネルギー自給率の向上に貢献します。
電気と熱を同時に供給できる
水素は燃料電池を通すことで、電気エネルギーと熱エネルギーを同時に取り出せます。家庭用燃料電池のエネファームでは、発電時に生じる熱を給湯や暖房に再利用する仕組みが採用されており、エネルギーの利用効率を高めています。単位重量あたりの発熱量はガソリンの約2.7倍にのぼり、ロケット燃料としても使われるほどのエネルギー密度を持ちます。
災害時にも強みを発揮する
日本は地震や豪雨といった自然災害が多く、近年は気候変動の影響で被害が大きくなる傾向にあります。水素は貯蔵しておけるエネルギーであるため、大規模停電が起きた際にも電気や熱の供給源として活用できます。分散型のエネルギー源として備えることで、災害時のレジリエンス強化にもつながります。
脱炭素における水素活用の課題とコスト
水素は脱炭素の有力な手段である一方、本格的な普及に向けてはいくつかの課題が残されています。
水素サプライチェーンの整備不足
水素を安定的に利用するには、製造・貯蔵・輸送・供給までの一連のサプライチェーンが必要です。しかし現状は各企業が個別に水素ステーションなどのインフラ整備を検討する段階にとどまり、需要が集積しにくいため、サプライチェーン全体の最適化が進みにくい状況です。水素発電の実証運転を進めるうえでも、必要な水素量の確保や、供給インフラ整備の見通しを立てることが課題となっています。
製造・輸送・貯蔵にかかるコスト
グリーン水素の製造には多額のコストがかかり、貯蔵・輸送にも専用設備の整備が欠かせません。輸送先となる水素ステーション数が限られている現状では、サプライチェーンの立ち上げやインフラ初期投資の重さが際立ちます。市場が未成熟な段階では需要家による大規模かつ安定的な調達が事業の前提になりますが、こうした初期コストの高さが、水素の普及を妨げる大きな要因になっています。
水素基本戦略が掲げる価格目標
日本政府は水素基本戦略で、供給コストを2030年に30円/Nm³、2050年に20円/Nm³以下まで引き下げる目標を掲げています。2030年の目標は水素1キログラムあたり約334円に相当し、2050年の目標は液化天然ガスと同等程度の価格水準です。
| 目標年 | 供給コスト目標 | 1kgあたりの目安 |
|---|---|---|
| 2030年 | 30円/Nm³ | 約334円 |
| 2050年 | 20円/Nm³以下 | 液化天然ガスと同水準 |
この価格目標を達成できるかどうかが、水素による脱炭素の実現速度を左右します。
脱炭素と水素をめぐる政策と企業の活用事例
水素による脱炭素を後押しするため、日本では法整備が進み、企業も具体的な取り組みを広げています。
水素社会推進法による支援制度
2024年10月に施行された水素社会推進法は、低炭素水素等の供給・利用を早期に促進する基本方針の策定や、計画認定制度の創設を柱としています。認定を受けた事業者には、低炭素水素の価格と既存燃料の価格との差額を支援する「価格差に着目した支援」と、貯蔵設備などの整備を後押しする「拠点整備支援」が用意されています。JOGMECがこれらの助成金交付を担い、供給事業者が水素を継続的に供給できる体制づくりを支えています。
産業・運輸分野での活用事例
産業分野では、CO2排出量の多い製鉄で水素を還元剤に使う水素還元製鉄の技術開発が世界的に進んでいます。運輸分野では、FCEVをはじめとする水素自動車が走る仕組みの社会実装や普及に加え、水素燃料電池船といった新しい活用の広がりも見られます。岩谷産業は国内初の内燃機関を持たない水素燃料電池船を開発し、東京港での旅客運航にも取り組んでいます。
企業による水素導入の取り組み
川崎重工業や岩谷産業などが参画する日本水素エネルギーは、国際液化水素サプライチェーンの商用化実証を進め、JFEスチール東日本製鉄所の高炉跡地に世界初となる商用規模の国際液化水素ターミナルの建設を開始しました。オーストラリアでは川崎重工業や関西電力、丸紅などが現地企業と協力し、再生可能エネルギー由来の水素を大規模に製造・輸出する事業化調査を進めています。こうしたインフラ整備に加えて、CO2の再利用を目指すカーボンリサイクル企業との連携も始まっており、ENEOSとトヨタ自動車もWoven Cityにおいて、水電解装置で製造したグリーン水素を燃料電池発電機で使う実証に取り組んでいます。
まとめ:脱炭素に水素を賢く活用する
脱炭素と水素の関係を、種類やメリット・デメリット、コスト課題、政策動向、企業事例の順に見てきました。水素はグレー・ブルー・グリーンといった製造方法によってCO2排出量が異なり、脱炭素効果を高めるにはグリーン水素への転換が重要です。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 水素は貯蔵・輸送ができ産業の脱炭素を支える
- コストとサプライチェーン整備が普及のカギを握る
- 水素社会推進法や企業の実証事例で活用が広がっている
本記事を通じて、水素が脱炭素にどう貢献し、どのような課題があるのかを具体的にイメージできたのではないでしょうか。自社の脱炭素戦略に水素をどう組み込むかを検討するうえで、判断材料として役立てられます。
水素活用の進め方について、より詳しい情報をお求めの方は、お気軽にお問い合わせください。
脱炭素と水素に関するよくある質問
参考文献
執筆者
編集部
Green With編集部は、GX・脱炭素・Scope3・カーボンニュートラルなどの実務情報をわかりやすく発信する編集チームです。政策・技術・企業事例を調査し、AIを活用した制作と編集部による事実確認を組み合わせ、実務に役立つ信頼性の高いコンテンツを提供しています。
監修者
リサーチチーム
Green With リサーチチームは、GX・脱炭素・Scope3・ESG・環境政策に関する国内外の一次情報を継続的に調査・分析する専門チームです。政府・業界団体・研究機関・企業の公開情報をもとに、記事の事実確認や専門性の担保、情報の正確性を監修しています。
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