TNFDとは?TCFDとの違いと4つの柱を丁寧に解説【2026年】
この記事のポイント
TNFDは企業が自然への依存と影響をリスクと機会として開示する国際的な枠組みで、ガバナンスや戦略など4つの柱とLEAPアプローチに沿って対応します。TCFDと異なり自然全般を対象とし、日本は開示企業数で世界をリードしています。
「TNFDという言葉を耳にするようになったけれど、自然関連財務情報開示の中身やTCFDとの違い、自社が何から始めればよいのかが整理できていない」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- TNFDの意味とTCFDとの違い
- 開示を支える4つの柱とLEAPアプローチ
- 企業が取り組むメリットと最新動向
TNFDとは、企業が自然や生物多様性に関わるリスクと機会を評価し、財務の観点から開示する国際的な枠組みです。
本記事を読めば、TNFDの基本から4つの柱やLEAPアプローチの進め方、日本企業の開示状況や義務化に向けた動きまで、自社の対応を検討する土台が整います。ぜひ最後までご覧ください。
TNFDとは自然関連財務情報開示の国際的な枠組み
TNFDとは、企業や金融機関が自然や生物多様性に関わるリスクと機会を評価し、財務的な観点から開示するための国際的な枠組みです。気候変動に続く経営課題として、自然資本への対応が世界的に重視されるなかで注目を集めています。
TNFDの基本的な意味と読み方
TNFDは「Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」の略称で、日本語では自然関連財務情報開示タスクフォースと呼ばれます。読み方は「ティーエヌエフディー」です。
企業活動は水や森林、土壌といった自然の恵みに支えられており、その一方で自然に負荷も与えています。TNFDは、こうした自然への依存と影響を「リスク」と「機会」として整理し、投資家をはじめとするステークホルダーに向けて開示する仕組みを提供します。2023年9月には最終提言となるフレームワークv1.0が公表され、企業が開示に取り組む際の実践的な指針が整いました。
TNFDが設立された背景
TNFDが設立された背景には、経済活動と自然が切り離せない関係にあるという認識の高まりがあります。世界経済フォーラムは、世界のGDPの半分以上が自然への依存度が高い、または中程度の産業によって生み出されていると指摘してきました。
こうした問題意識のもと、2021年6月にTNFDは国際的なイニシアチブとして発足しました。カーボンニュートラルへの取り組みが加速するなか、金融機関や企業、政府機関などが参画し、自然の損失がもたらす財務的なリスクを可視化する共通の枠組みづくりが進められています。世界の資金の流れを、自然を回復させる方向へ向けるネイチャーポジティブの実現が最終的な狙いです。
TNFDが対象とする自然の範囲
TNFDが対象とする自然は、生物多様性だけにとどまりません。ネイチャーポジティブとは何かを議論するうえで欠かせない陸域、海洋、淡水、大気という4つの領域を「realm」として位置づけ、企業活動と自然との接点を幅広くとらえます。
具体的には、原材料の調達に関わる森林や水資源、事業拠点周辺の生態系など、サプライチェーン全体を含めた広い範囲が視野に入ります。気候変動が主に温室効果ガスという単一の指標で語られるのに対し、自然は地域ごとに状態が異なり、扱う要素も多岐にわたる点が特徴です。
TNFDとTCFDの違い
TNFDは、気候変動の情報開示枠組みであるTCFDをモデルとして設計されています。両者には多くの共通点がある一方で、扱う対象や難しさには本質的な違いがあります。
4つの開示の柱という共通点
TNFDとTCFDの最大の共通点は、開示の骨格となる4つの柱を共有している点です。どちらも「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」という構成で情報開示を求めます。
| 項目 | TCFD | TNFD |
|---|---|---|
| 対象 | 気候変動 | 自然全般・生物多様性 |
| 開示の柱 | 4つの柱 | 同じ4つの柱を踏襲 |
| 発足 | 2015年 | 2021年 |
この共通構造により、すでにTCFDに対応してきた企業は、その経験や社内体制をTNFD対応に活かせます。開示のフォーマットが近いため、気候と自然を一体的に報告する動きも広がっています。
対象範囲とアプローチの違い
TCFDが気候変動という比較的単一のテーマを扱うのに対し、TNFDは水、森林、土壌、生物多様性など多様な要素を対象とします。環境経営を進めるうえでカーボンニュートラルと脱炭素の違いを整理することは大切ですが、この気候と自然の対象範囲の広さもまた、両者の根本的な違いです。
柱の名称にも違いが表れています。TCFDの「リスク管理」は、TNFDでは「リスクと影響の管理」となりました。企業が自然から受けるリスクだけでなく、企業が自然に与える影響までを評価対象に含める点が、TNFDならではの考え方です。
場所の固有性という難しさ
TNFD特有の難しさは、自然の状態が場所によって大きく異なる点にあります。温室効果ガスがどこで排出されても地球全体に影響するのに対し、自然への影響は事業を営む地域ごとに評価する必要があります。
たとえば水資源が豊富な地域と水ストレスの高い地域では、同じ取水量でもリスクの重みが変わります。このため企業は、自社の拠点やサプライチェーンが自然とどこで接点を持つかを地理情報とともに把握しなければなりません。この「場所の固有性」への対応が、TNFD開示の実務上の大きな課題です。
TNFD開示を支える4つの柱
TNFDの開示フレームワークは、4つの柱と、その下に置かれた14の開示推奨項目で構成されています。TCFDと同じ骨格を用いながら、自然の特性に合わせて内容が調整されています。
ガバナンス
ガバナンスは、自然関連のリスクと機会に企業がどう向き合うかという管理体制を示す柱です。取締役会や経営層が、自然課題をどのように監督し意思決定に組み込んでいるかを開示します。
具体的には、自然関連の課題に対する取締役会の監督体制や、経営者の役割を明らかにします。TNFDでは、先住民や地域社会といったステークホルダーへの配慮を含めて説明する点が求められる部分です。自然への対応が経営の中枢に位置づけられていることを、対外的に示す役割を担います。
戦略
戦略は、自然関連のリスクと機会が事業や経営計画にどう影響するかを説明する柱です。短期・中期・長期の時間軸で、自然課題が財務に与える影響を示します。
企業は、自社の事業戦略が自然の状態に依存する度合いや、自然の変化に対する耐性を評価します。将来の不確実性に備えるため、複数の状況を想定したシナリオ分析の実施も推奨されています。自然の損失が事業機会に転じる可能性まで含めて、戦略への織り込みを求める内容です。
リスクと影響の管理
リスクと影響の管理は、自然関連の課題を特定し、評価し、対応する一連のプロセスを示す柱です。TCFDの「リスク管理」に「影響」という言葉が加わった点に、TNFDの特徴が表れています。
企業は、自然への依存と影響をどのような手順で洗い出し、優先順位をつけているかを開示します。後述するLEAPアプローチは、このプロセスを実践するための手引きにあたります。自社が受けるリスクと、温室効果ガスの吸収量が上回るカーボンネガティブのような先進技術を含め、自社が自然に及ぼす影響の双方を管理対象とする考え方です。
指標と目標
指標と目標は、自然関連の取り組みの進捗を測るための物差しを示す柱です。企業は、自然への依存や影響、リスクと機会を測定する指標を設定し、その実績を開示します。
TNFDは、業種を問わず共通で用いるコア指標と、業種ごとの追加指標を提示しています。取水量や土地利用の変化、汚染物質の排出といった項目が代表例です。これら4つの柱を支える前提として、報告範囲や利用データの扱いを定めた一般要件も置かれており、開示全体の信頼性を高める仕組みとなっています。
TNFD対応を進めるLEAPアプローチ
LEAPアプローチは、企業が自然関連のリスクと機会を特定し評価するために、TNFDが示した4段階のプロセスです。Locate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字を取って名づけられています。
このアプローチは、開示に必要な情報を体系的に集めるための手引きとして設計されています。あらゆる規模や業種の組織が使えるよう、最初に評価の対象範囲を定めるスコーピングから始める流れです。
自然との接点を発見するLocate
Locateは、自社の事業やサプライチェーンが自然とどこで接点を持つかを特定する最初のステップです。たとえば海洋資源に関わる企業であれば、ブルーカーボンとは何かを踏まえつつ、事業拠点や調達先の位置を自然環境の状態と重ね合わせて把握します。
この段階では、水ストレスの高い地域や生物多様性の重要な地域に、自社の活動が関わっていないかを確認します。地図情報を用いて、優先的に対応すべき場所を絞り込む作業にあたります。
依存と影響を診断するEvaluate
Evaluateは、特定した場所で自社が自然にどう依存し、どのような影響を与えているかを診断するステップです。事業活動と自然とのつながりを、具体的に見える化します。
たとえば製造工程での取水や、原材料調達に伴う森林への負荷などを洗い出します。自然からの恵みにどれだけ頼っているか、そして自然にどれだけ負荷をかけているかを整理する段階です。
リスクと機会を評価するAssess
Assessは、依存と影響の診断結果をもとに、自然関連のリスクと機会を評価するステップです。事業への影響の大きさや発生の可能性を踏まえ、優先度を整理します。
自然の損失によって原材料の調達が難しくなるリスクもあれば、自然の回復に貢献する製品が新たな機会となる場合もあります。財務への影響という観点から、重要性の高い項目を見極める作業です。
対応と報告を準備するPrepare
Prepareは、評価結果を踏まえて対応策を検討し、開示に向けた準備を進める最終ステップです。設定すべき指標や目標を定め、報告の内容をまとめます。
このステップでは、自然関連の課題を経営戦略やリスク管理の仕組みに組み込む方針も検討します。LEAPアプローチで得た分析結果が、4つの柱に沿った開示へとつながっていく流れです。
企業がTNFDに取り組むメリットと最新動向
TNFDへの対応は、単なる情報開示の負担にとどまりません。企業価値の向上やリスク管理の高度化につながる取り組みとして、対応する企業が世界的に増えています。
企業価値の向上とESG投資の呼び込み
TNFDに取り組む最大のメリットは、自然への配慮を示すことで企業価値を高められる点です。ESGを重視する投資家や金融機関からの評価につながりやすくなります。
自然関連のリスクを早期に把握し開示する企業は、将来の不確実性への備えができているとみなされます。その結果、企業が得る脱炭素のメリットと同様に、資金調達の面で有利になるほか、取引先や消費者からの信頼、優秀な人材の獲得といった効果も期待できます。自然への依存を見直す過程で、原材料調達の安定化などの経営改善につながる場合もあります。
日本企業のTNFD開示の状況
日本は、TNFDへの対応で世界をリードする立場にあります。TNFDへの賛同を表明したTNFDアダプターの数は、2026年時点で世界全体で730を超え、そのうち日本企業が最も大きな割合を占めています。
政府も「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定し、既存のカーボンニュートラル政策と連携して企業による自然関連の情報開示を後押ししています。国内では130社ほどの企業や金融機関が、TNFDに沿った自然関連の評価を進めているとされます。金融、食品、製造など幅広い業種で開示の動きが広がっている状況です。
義務化に向けた今後の見通し
TNFDは現時点で任意の枠組みですが、将来的に制度化へ向かう可能性があります。国際的なサステナビリティ開示基準を定めるISSBが、TNFDのフレームワークを土台に自然関連開示の基準づくりを進めているためです。
ISSBは2026年に自然関連開示の公開草案を示す方向で検討を進めており、企業がTNFDの指標を活用できる案も示されています。これは、任意の枠組みから制度に沿った基準づくりへと移る節目です。今後の動向は未確定の見通しであるものの、早期に対応を進めておくことが、将来の義務化への備えになります。
まとめ:TNFDは自然と経営をつなぐ情報開示の新しい基準です
本記事では、TNFDの意味やTCFDとの違い、開示を支える4つの柱とLEAPアプローチ、そして企業が取り組むメリットと最新動向を解説してきました。自然関連財務情報開示は、気候変動に続く経営課題として位置づけられています。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- TNFDは自然への依存と影響をリスクと機会として開示する枠組み
- 4つの柱とLEAPアプローチが開示の実践を支える
- 日本は開示で世界をリードし将来の制度化も見据える段階
TNFDの全体像を理解できたことで、自社が自然とどう向き合い、開示に向けて何から着手すべきかを考える土台が整ったはずです。まずは自社の事業と自然との接点を把握することから、対応の第一歩を踏み出していただければと思います。
TNFDや自然関連の情報開示について詳しく相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
TNFDに関するよくある質問
参考文献
執筆者
編集部
Green With編集部は、GX・脱炭素・Scope3・カーボンニュートラルなどの実務情報をわかりやすく発信する編集チームです。政策・技術・企業事例を調査し、AIを活用した制作と編集部による事実確認を組み合わせ、実務に役立つ信頼性の高いコンテンツを提供しています。
監修者
リサーチチーム
Green With リサーチチームは、GX・脱炭素・Scope3・ESG・環境政策に関する国内外の一次情報を継続的に調査・分析する専門チームです。政府・業界団体・研究機関・企業の公開情報をもとに、記事の事実確認や専門性の担保、情報の正確性を監修しています。
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